いちご(苺/strawberry/ストロベリー)は私たちにとって身近な果物ですが、その一粒一粒がどのように生まれているのかを知る機会は多くありません。甘さや香り、見た目の美しさ、育てやすさは、偶然ではなく、長い年月をかけた遺伝子改良と新品種開発の積み重ねによって形づくられています。
本記事では、いちごの遺伝子改良・新品種開発の基本的な仕組みから、日本での歴史、育種の難しさ、技術の進化、そしてこれからの展望までをわかりやすく解説します。いちごのおいしさの背景にある「育種の世界」を知ることで、これまでとは違った視点でいちごを楽しめるはずです。ぜひ最後までご覧ください。
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1. いちごの遺伝子改良とは何か ― 品種開発の基本を知る

いちごは日常的に親しまれている果物ですが、その一粒一粒の背景には、長い年月をかけた遺伝子改良と新品種開発の積み重ねがあります。甘さや香り、果実の大きさや色づきの美しさは、偶然生まれたものではありません。育種家や研究者が数えきれないほどの交配と選抜を繰り返し、「どんないちごが本当においしいのか」を追求してきた結果です。ここでは、いちごの遺伝子改良とは何を意味するのか、品種開発の基本からお話しします。
遺伝子改良と品種改良の違い
「遺伝子改良」という言葉から、遺伝子組換え作物を想像する人も少なくありません。しかし、日本のいちご新品種開発の多くは、自然交配を基盤とした品種改良によって行われています。味や香り、果実の形が優れた親株同士を人工的に交配し、その子世代の中から目的に合った個体を選抜する方法です。
近年は遺伝子解析技術の進歩により、親の組み合わせと形質の関係がより明確になってきました。それでも、遺伝子そのものを直接操作するわけではなく、自然の遺伝の仕組みを理解し活用する姿勢が基本にあります。科学と経験を融合させながら、少しずつ理想のいちごに近づけていくのが、日本の育種の特徴です。
なぜいちごは改良対象として注目されるのか
いちごは果物の中でも特に嗜好性が高く、消費者の評価が市場に強く反映されます。糖度がわずかに高い、酸味の立ち方がやさしい、香りが豊かといった小さな違いが、「また食べたい」という印象を大きく左右します。そのため、遺伝子改良による品質向上の価値が非常に高い作物とされています。
さらに、いちごは生食用だけでなく、洋菓子やジャムなどの加工用、観光農園向けなど用途が幅広い果物です。それぞれに求められる特性が異なるため、用途別に品種を作り分ける必要があり、継続的な新品種開発が欠かせません。
日本におけるいちご育種の特徴
日本のいちご育種は、「おいしさ」を何よりも重視する点に特徴があります。海外では収量性や輸送中の傷みにくさが優先されることも多い一方、日本では香り、果肉のやわらかさ、後味まで細かく評価されます。その結果、1つの品種が完成するまでに10年以上かかることも珍しくありません。
人工交配で生まれる苗の多くは、味が安定しなかったり、病気に弱かったりと、商品化には至りません。数万株の中から、わずか数株だけが選抜を勝ち抜きます。この地道で粘り強い遺伝子改良の積み重ねこそが、日本のいちごが高品質と評価される理由であり、私たちの食卓を支えているのです。
2. 日本のいちご新品種開発の歴史

日本のいちごは、現在では世界的にも高品質と評価されていますが、その背景には長い新品種開発の歴史があります。現在当たり前のように流通している甘く美しいいちごも、はじめから存在していたわけではありません。時代ごとの栽培環境や消費者ニーズに応じて、改良が重ねられてきました。ここでは、日本のいちご新品種開発がどのように始まり、どのような変化を経て現在に至ったのかを、歴史の流れに沿って解説します。
在来品種から始まった日本のいちご栽培
日本で本格的にいちごが栽培されるようになったのは、比較的近代になってからです。初期のいちごは果実が小さく、酸味が強いものが多く、現在のような「甘くて食べやすい果物」という印象とは異なっていました。当時は在来系統や海外から導入された品種をもとに、地域の気候に適応させることが主な目的でした。
この時代の新品種開発は、収穫量を安定させることや、栽培しやすさを高めることが中心で、味の改良はまだ発展途上でした。しかし、ここで積み重ねられた栽培技術と交配経験が、後の本格的な育種研究の基盤となります。
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戦後に進んだ育種研究と品種改良
戦後になると、農業技術の発展とともに、いちごの新品種開発も大きく進展します。人工交配による育種が本格化し、「甘さ」「果実の大きさ」「見た目の良さ」といった品質面が重視されるようになりました。この時期から、複数の特性を同時に改良する取り組みが進み、単に育てやすいだけでなく、食味にも優れたいちごが次々と誕生します。
また、栽培環境の変化に対応するため、病気に強い品種や、安定して収穫できる品種の開発も進められました。新品種開発は、農家の経営を支える重要な役割を担うようになっていきます。
「甘さ重視」の文化が生んだ現代品種
日本のいちご新品種開発を語るうえで欠かせないのが、「甘さ」を重視する独自の食文化です。消費者の嗜好が年々高まり、より甘く、より香り高いいちごが求められるようになりました。それに応える形で、糖度だけでなく、酸味とのバランスや後味の良さまで考慮した改良が行われるようになります。
この流れの中で、観光農園向けや高級果実市場向けなど、用途を明確にした品種も増えていきました。現在の日本のいちごは、長い歴史の中で積み重ねられた遺伝子改良の成果であり、「おいしさ」を追求し続けてきた文化そのものと言えるでしょう。
3. いちごの遺伝的特徴と改良の難しさ

いちごの新品種開発は、ほかの果樹や野菜と比べても難易度が高いとされています。その理由の一つが、いちご特有の遺伝的な性質です。甘さや香りといった魅力的な形質を持ちながらも、それらを安定して次世代へ受け継がせることは簡単ではありません。ここでは、いちごが持つ遺伝的特徴と、それが品種改良を難しくしている理由について解説します。
いちごの染色体構造と遺伝の特徴
いちごは一般的な作物とは異なり、染色体の構造が非常に複雑です。多くの作物が2倍体であるのに対し、栽培されているいちごの多くは多倍体であり、遺伝情報を複数セット持っています。このため、親の形質が単純に子へ受け継がれるとは限りません。
同じ親同士を交配しても、甘さが強く出る個体もあれば、酸味が目立つ個体、形が不揃いな個体など、結果はさまざまです。この遺伝的なばらつきが、いちご育種の難しさであると同時に、新しい可能性を生み出す源にもなっています。
狙った形質が安定しにくい理由
いちごの改良では、「甘い」「大きい」「病気に強い」といった複数の形質を同時に備えた品種が理想とされます。しかし、これらの形質はそれぞれ異なる遺伝要因によって決まるため、すべてを高いレベルで兼ね備えた個体はなかなか現れません。
たとえば、糖度が高い個体は果実がやわらかくなりやすく、輸送性が下がることがあります。逆に、日持ちの良さを優先すると、食味が犠牲になる場合もあります。育種家は、このトレードオフを理解したうえで、何を最優先するかを見極めながら改良を進めています。
長期間の選抜が必要となる育種の現実
いちごの新品種開発では、人工交配から始まり、実際に果実を収穫して評価できるまでに時間がかかります。さらに、1年だけの結果ではなく、複数年にわたって同じ品質が安定して得られるかを確認する必要があります。そのため、1つの品種が完成するまでに10年以上を要することも珍しくありません。
数千、数万株の中から、わずか数株だけが次の試験段階へ進みます。この厳しい選抜を繰り返すことで、初めて市場に出せる品質が保証されます。いちごの遺伝子改良とは、短期間で成果が出る技術ではなく、忍耐と観察力を必要とする、極めて地道な取り組みなのです。
4. 新品種開発で重視される主な改良ポイント

いちごの新品種開発では、「おいしそう」「甘い」という印象だけで評価が決まるわけではありません。実際の育種現場では、消費者の満足度だけでなく、生産者の栽培のしやすさや流通段階での扱いやすさまで含めて、総合的に改良ポイントが検討されます。ここでは、日本のいちご遺伝子改良において特に重視されている代表的な改良要素について解説します。
食味を左右する糖度・酸味・香りの改良
いちごの改良で最も注目されやすいのが食味です。糖度が高いことは重要ですが、それだけでは「おいしいいちご」とは評価されません。酸味とのバランスや、口に含んだときに広がる香り、後味のすっきり感までが総合的に判断されます。
育種の現場では、単に糖度を上げるのではなく、甘さを引き立てる酸味の出方や、品種特有の香りをどの程度残すかが細かく検討されます。香り成分は環境の影響も受けやすく、安定して再現することが難しいため、遺伝的な傾向を見極めながら慎重に選抜が進められます。
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果実の形・色・大きさを安定させる改良
市場で評価されるいちごには、味だけでなく見た目の美しさも求められます。果実の形が揃っていること、鮮やかな赤色に均一に色づくこと、適度な大きさを保つことは、商品価値を大きく左右します。
しかし、これらの形質は栽培環境の影響を受けやすく、遺伝的に安定させることが簡単ではありません。そのため、新品種開発では複数年にわたる試験栽培を通じて、異なる環境下でも同じ品質が得られるかが確認されます。見た目の安定性は、農家の出荷ロスを減らす点でも重要な改良ポイントです。
日持ち・輸送性・栽培性を高める改良
いちごは非常にデリケートな果物で、収穫後の傷みやすさが課題とされてきました。そこで近年は、果肉の硬さや果皮の強さを適度に高め、日持ちや輸送性を向上させる改良も重視されています。ただし、硬くしすぎると食味が損なわれるため、そのバランス調整が難しい点です。
また、生産者の視点では、病害に強く、安定して収量が得られることも欠かせません。作業負担を軽減しながら高品質ないちごを生産できる品種は、長期的な栽培継続につながります。新品種開発は、消費者・生産者・流通のすべてを見据えた改良の積み重ねによって成り立っているのです。
5. 遺伝子改良と交配育種の具体的な手法

いちごの遺伝子改良や新品種開発は、偶然に任せた試みではなく、明確な目的と工程に基づいて進められています。甘さや香り、病害抵抗性など、理想とする形質を思い描きながら、どの親を使い、どのように交配し、どの段階で選抜するかが慎重に設計されます。ここでは、いちご新品種が誕生するまでの具体的な交配育種の流れと、近年進化してきた遺伝子情報の活用について詳しく解説します。
人工交配による新品種作出の流れ
新品種開発の第一歩は、親品種の選定です。糖度が高い品種、香りに特徴のある品種、病気に強い品種など、それぞれ異なる長所を持つ系統を見極め、目的に応じた組み合わせが検討されます。開花時期を調整し、雄しべから採取した花粉を雌しべに人工的に受粉させることで、狙った交配が行われます。
こうして得られた種子から育つ苗は、同じ交配であっても性質が一様ではありません。甘さが強く出る個体もあれば、形が崩れやすい個体、病気に弱い個体も生まれます。この多様性こそが育種の素材であり、ここから厳しい選抜が始まります。
選抜・固定・試験栽培にかかる長い年月
交配によって得られた苗は、すべてが評価対象になるわけではありません。最初の段階で果実が小さすぎる、味が不安定、収量が極端に少ないといった理由で、多くの苗が除外されます。選抜を通過した個体のみが、次の栽培試験へ進みます。
さらに重要なのが、複数年にわたる試験栽培です。いちごは気温や日照条件の影響を受けやすいため、1年だけ良好な結果が出ても品種としては不十分です。異なる年、異なる環境下でも安定した品質を示すかを確認し、形質が固定されているかを慎重に見極めます。この工程だけで数年を要することも珍しくありません。
遺伝子情報を活用した育種技術の進化
近年のいちご育種では、遺伝子解析技術の進歩により、改良の精度が高まっています。DNA情報を解析することで、甘さや病害抵抗性に関わる遺伝的傾向を把握できるようになり、交配の方向性を事前に予測しやすくなりました。これにより、従来よりも効率的に有望な個体を選抜できるようになっています。
ただし、遺伝子情報はあくまで補助的な判断材料にすぎません。最終的に品種として評価されるかどうかは、実際に栽培し、収穫し、食味を確かめた結果によって決まります。いちごの遺伝子改良とは、科学的データと人の感覚を融合させながら、長い時間をかけて完成度を高めていく育種技術なのです。
6. 病害虫・環境ストレスに強いいちごの開発

近年のいちご新品種開発において、病害虫や環境ストレスへの強さは、食味と並んで重要な改良ポイントとなっています。気候変動の影響により、これまで問題にならなかった病気が発生したり、栽培環境の変化によって収量が不安定になったりするケースが増えてきました。ここでは、安定した生産を支えるために進められている、病害虫・環境ストレスに強いいちごの開発について解説します。
主要病害に強いいちごを目指した改良
いちご栽培において大きな課題となるのが、炭疽病やうどんこ病などの病害です。これらは一度発生すると圃場全体に広がりやすく、収量や品質に深刻な影響を及ぼします。そのため、新品種開発では病害に対する抵抗性を持つ系統の選抜が重視されてきました。
病害抵抗性は見た目だけでは判断できないため、実際に病原菌にさらす試験や、発病しやすい環境下での栽培試験が行われます。こうした試験を通じて、薬剤に頼らずとも安定して育つ個体が選び出されます。結果として、防除作業の負担軽減や、環境への配慮にもつながっています。
高温・低温など環境ストレスへの対応
近年は、夏の高温化や急激な気温変化といった環境ストレスが、いちご栽培に大きな影響を与えています。高温下では花芽形成が不安定になり、低温では生育が遅れるなど、品質のばらつきが生じやすくなります。
新品種開発では、こうした環境変化に耐えられる遺伝的特性を持つ個体の選抜が進められています。異なる地域や条件で試験栽培を行い、温度変化に対しても果実品質を保てるかが評価されます。環境ストレスへの強さは、将来の安定生産を見据えた重要な改良要素です。
持続可能な栽培を支える新品種の役割
病害虫や環境ストレスに強いいちごは、生産者にとって大きなメリットをもたらします。防除回数の削減や収量の安定は、作業負担やコストの軽減につながります。また、安定供給が可能になることで、消費者も品質の揃ったいちごを継続して楽しめます。
新品種開発は単に強いいちごを作るだけでなく、環境負荷を抑えながら生産を続けるための基盤づくりでもあります。病害虫や環境ストレスへの耐性を備えた品種は、これからのいちご栽培に欠かせない存在となっていくでしょう。
7. 技術が変えるいちごの遺伝子改良

いちごの遺伝子改良と新品種開発は、近年の科学技術の進歩によって大きく様変わりしています。これまでの育種は、長年の経験や試行錯誤に大きく依存してきましたが、現在では遺伝子情報を活用することで、より計画的かつ効率的に改良を進められるようになりました。ただし、日本のいちご育種は「技術だけに頼らない」姿勢を大切にしており、技術はあくまで人の判断を支える道具として活用されています。
DNA解析技術が育種にもたらした変化
近年、いちごの育種現場ではDNA解析技術が導入され、改良の精度が向上しています。これにより、苗の段階で遺伝的な特徴を把握できるようになり、果実がなるまで待たずに有望な個体を見極めることが可能になりました。
従来は、交配後に数年かけて育て、実際に収穫してから評価を行う必要がありましたが、遺伝子情報を参考にすることで、改良の方向性を早い段階で判断できます。その結果、育種にかかる時間や労力を抑えつつ、目的に合った個体を効率的に選抜できるようになっています。
ゲノム解析による交配計画の高度化
いちごのゲノム解析が進んだことで、どのような遺伝的要素が甘さや香り、病害抵抗性に関与しているのかが徐々に明らかになってきました。これにより、交配の組み合わせを考える際も、単なる経験則だけでなく、科学的根拠をもとに判断できるようになっています。
ただし、遺伝子の働きは単純ではなく、同じ遺伝的背景を持っていても、栽培環境によって果実の品質が変化することがあります。そのため、ゲノム情報は「結果を保証するもの」ではなく、「可能性を高める指標」として位置づけられています。育種家はデータと現場観察を組み合わせながら、慎重に改良を進めています。
技術が進化しても変わらない育種の本質
最新技術がいちごの遺伝子改良を大きく前進させている一方で、育種の本質そのものは変わっていません。最終的に新品種として評価されるのは、実際に栽培して安定した収量が得られるか、そして食べたときに本当においしいかどうかです。
育種家は遺伝子データを参考にしつつも、果実の香りや口当たり、栽培中の変化を自分の目と感覚で確かめ続けています。いちごの遺伝子改良は、最先端の科学と人の経験が融合することで成り立つ分野です。技術の進化を取り込みながらも、人の感覚を大切にする姿勢こそが、日本のいちご新品種開発を支えていると言えるでしょう。
8. 新品種開発と知的財産権の関係

いちごの新品種開発は、長い年月と多くの労力を要する取り組みです。その成果を守り、次の研究や育種につなげていくために欠かせないのが、知的財産権の考え方です。とくに日本では、いちごの高品質化が進むにつれて、新品種の価値そのものが大きな財産となってきました。ここでは、いちごの遺伝子改良と深く関わる知的財産権の仕組みと、その重要性について解説します。
品種登録制度と育成者権の基本
日本では、新たに開発された植物品種は「品種登録制度」によって保護されます。品種登録が認められると、その品種を育成した個人や団体には「育成者権」が与えられます。これは、その品種を増やしたり販売したりする権利を一定期間独占できる仕組みです。
いちごの新品種は完成までに10年以上かかることも多く、その間に投入される研究費や人件費は決して小さくありません。育成者権は、こうした投資を回収し、次の品種開発へとつなげるための重要な支えとなっています。
海外流出問題と品種保護の必要性
日本のいちごは品質が高く、海外でも高い評価を受けています。その一方で、無断で苗が持ち出され、海外で栽培・販売されるといった問題も過去に発生してきました。こうした事例は、育成者の権利を侵害するだけでなく、日本のいちごブランド全体の価値を損なう恐れがあります。
この問題を受けて、品種登録の徹底や管理体制の強化が進められてきました。遺伝子改良によって生み出された新品種を守ることは、単なる権利保護にとどまらず、日本の農業技術そのものを守る行為でもあります。
知的財産が次の品種開発を支える
知的財産権の整備は、新品種開発のスピードや質にも影響します。育成者が正当に評価され、利益を得られる環境が整うことで、研究や育種への意欲が高まり、より高品質ないちごの開発につながります。
また、知的財産としての価値が明確になることで、産地のブランド化や差別化も進みます。消費者にとっても、「どこで、どのように生まれた品種なのか」が分かることは、安心感や付加価値につながります。いちごの遺伝子改良と知的財産権は切り離せない関係にあり、今後の新品種開発を支える重要な基盤となっているのです。
9. 市場と消費者ニーズが品種開発に与える影響

いちごの新品種開発は、研究者や育種家の理想だけで進められるものではありません。実際には、市場の動きや消費者の嗜好が、品種開発の方向性に大きな影響を与えています。どれほど優れた特性を持つ品種であっても、求められるニーズと合致しなければ普及は進みません。ここでは、市場と消費者の視点が、いちごの遺伝子改良や新品種開発にどのように反映されてきたのかを解説します。
消費者嗜好の変化と品種改良の方向性
かつてのいちごは、「甘いかどうか」が最大の評価基準でした。しかし近年では、甘さだけでなく、酸味とのバランスや香り、食べたときの印象まで重視されるようになっています。さらに、見た目の美しさや粒の大きさ、果肉のやわらかさといった要素も、購入の決め手となっています。
こうした嗜好の変化を受けて、新品種開発では単一の特性だけでなく、総合的な品質が求められるようになりました。遺伝子改良の現場では、「誰に、どんな場面で食べられるいちごなのか」を具体的に想定しながら、改良目標が設定されています。
高付加価値化とブランド志向への対応
いちご市場では近年、高付加価値化とブランド化が進んでいます。贈答用や観光農園向け、高級果実市場など、用途ごとに求められる品質が細分化され、それに対応した品種開発が行われています。
ブランドいちごでは、味や見た目に加えて、「産地」「開発背景」「希少性」といったストーリー性も重要な要素です。そのため、新品種開発の段階から、どのような価値を持たせるのかが検討されます。遺伝子改良は、単に特性を高めるだけでなく、市場での位置づけを明確にする役割も担っています。
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生産・流通現場の声が育種に反映される理由
市場のニーズは、消費者だけでなく、生産者や流通業者の声によっても形成されます。収穫しやすさや安定した収量、輸送中の傷みにくさなどは、実際の現場で強く求められる要素です。
新品種開発では、こうした現場の意見を取り入れながら、実用性の高い品種が選抜されていきます。市場と消費者のニーズを的確に捉え、それを遺伝子改良に反映させることが、長く愛されるいちごを生み出すための重要な条件となっているのです。
10. これからのいちご遺伝子改良・新品種開発の未来

いちごの遺伝子改良と新品種開発は、これまで「よりおいしく、より美しく」を目標に進められてきました。しかし今後は、それだけでは十分とは言えません。気候変動や生産者の高齢化、消費者意識の変化など、いちごを取り巻く環境は大きく変わりつつあります。これからの新品種開発には、味や見た目に加えて、持続可能性や社会的役割も強く求められていくでしょう。
気候変動時代に対応する遺伝子改良
近年の気温上昇や異常気象は、いちご栽培に大きな影響を与えています。これまで安定して栽培できていた地域でも、高温障害や生育不良が発生しやすくなっています。そのため、今後の遺伝子改良では、高温や急激な温度変化に耐えられる品種の開発が一層重要になります。
また、限られた環境条件の中でも安定して品質を保てる品種は、生産地域の選択肢を広げることにもつながります。環境の変化に柔軟に対応できる遺伝的特性は、これからの新品種に欠かせない要素となっていくでしょう。
生産者と消費者をつなぐ品種開発
これからのいちご新品種開発では、生産者と消費者の双方にとって価値のある品種づくりが求められます。生産者にとっては、栽培しやすく、安定した収量が得られることが重要です。一方、消費者は、安全性や品質、そして「どんな背景で作られているのか」といった情報にも関心を持つようになっています。
遺伝子改良によって生まれた新品種が、こうした両者の期待を橋渡しする存在となることで、いちごの価値はさらに高まります。品種そのものが、生産と消費をつなぐコミュニケーションの役割を果たす時代が近づいています。
次世代へつなぐいちご育種の役割
いちごの遺伝子改良は、短期的な流行を追うものではありません。10年、20年先を見据え、次の世代にどのような栽培環境と食文化を残すのかを考える取り組みです。環境負荷を抑え、生産者が無理なく続けられ、消費者が安心して楽しめるいちごを生み出すことが、これからの育種に求められています。
最新技術と人の経験を融合させながら、未来のいちごを形づくっていく。その積み重ねこそが、日本のいちご遺伝子改良と新品種開発の本当の価値と言えるでしょう。
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